無縁仏、個の記憶、種の記憶、物質

墓地の一角に、無縁仏となった墓石が一箇所に集められ、円心状に積み重ねられている。もはや、ひとつの塔のようだ。いや、巨大な墓石といった方がよいのだろうか。とにかく、不思議な存在感がある。無縁仏は、墓を管理する人がいなくなり、縁が途切れてしま…

小さな祈りから

言葉を蒔いて、芽が出るのを待つ。どれくらい待つのかは分からない、花が咲くかは分からない。途中で、枯れてしまうこともあるだろう。誰にも気づかれないかもしれない。それでも、いつかはと信じて、祈ることしかできない。何かを信じることとは、不確実で…

分断される世界で

人を助けるというと、心優しいけれど傷ついて困難な状態にある人を助けると思う場合が多いかもしれないけれど、社会の役割や仕事として人を助ける場合は、誰かを傷つけたり悪い事をしている人を助ける事もある。だから、好き嫌いではなく社会の制度として人…

言葉の本性

人間の精神にとっての現在が、過去と未来に分かれていくように、言葉の働きも、意味する働きと表現する働きに分かれていく。人間から生まれた言葉という道具は文字を生み、話すことと書くことに分かれていった。まるで、人間の精神の持つ本性を模倣するかの…

世界と他者、そして分有と共感

世界がここにあると信じている人たちと違い、世界を疑っている私の振る舞いは、どこかよそよそしく、常に何かに追われているようだった。どこか落ち着きのない、安心できない気分に覆われて、他者がずっと遠くに感じたり、自分がここにいるという感覚が希薄…

若い頃の失敗、死の不安を忙殺で追いやること。

生き物が死ぬと知った時、私は怖くててたまらなかった。自分の存在がこの世界から無くなるとはどういことか、幼い心で考えても答えは出るはずもなく、それ以来、死という不安に襲われては泣いてしまう日々が続いた。いつか死んでしまうのに、何故生まれてく…

夕方の友人達

冬の空、鳥が沖へ飛んでいく海岸線の防波堤の上を歩いている。外側にはテトラポットの波しぶきに海藻が揺れている。内側には釣人やランナーのための歩道がまだ新しい。波が打ちつけられ、砂が吹きさらされる。眩しいと感じたら、もう夕方だった。 友人に呼び…

生きる綻び―モーメント、再会

歳をとると、意識が遠隔的になっていくような気がしている。若い時は近接的な未来や人間関係に意識を向けているが、年老いていく時は子より孫へ、隣人より離れた人へと、遠隔的に意識を向けているように感じる。もちろん、三世代くらいの間隔、一度は行った…

解離に間接的に与えられたものについての試論

本文 ひとまず解離を意識が狭窄した特殊な注意状態と定義する事が可能かもしれない。そしてシモンドンの系統発生と特異性、ドゥルーズの潜在的/現働的を考慮して意識を考えるならば、自我境界自体が内部/外部を知覚する器官となり、そこに自我/対象備給が…

ドゥルーズの非人間主義

範疇(カテゴリー)と階層(ヒエラルキー)を峻別すること。しかし、それらが交錯することもある。そして、それらは接続(série)・連接(在立)・離接(出来事)する。それは、プレローマ(力と衝突)とクレァトゥーラ(差異)の交錯ともいえるし、意識と言…

近い未来の来訪者と遠い未来の来訪者

人間は誰しも未来のイメージを持っている。おそらく、この先こうなっているであろう…といった未来のイメージを前提として、「今、ここ」で起きている出来事に注意(関心)を向けて、外界を知覚し、状況を理解し、情報を選択しながら行動している。こうした個…

対人援助の人文知との再接続に向けて

問題と目的 人を助ける、援助するという事が人間社会の中の制度となった歴史は、医療や法律といった人間社会の古くからある制度に比べ新しくまだしっかりとした構造とはいえないと考えられます。古くは、宗教がその多くを担っており、寺院や教会などの施設で…

無人島の記憶と言語の消滅

原文 私というのはひとつの無人島である。主体化された動物(※1)がそこで活動し、群れが社会(※2)を形成し新たな形態を得たとしても、欲望(※3)を主体化された点が所有することはない。そもそも、その欲望は主体化された点が所有していたものではなく、異…

外在―ひとつの生

無記名の、無所属のひとりの人間、立場も、役割りもない人間が書く文章を誰が読むのだろうか。それは壁に書かれた匿名のいたずら書きと変わらない、意味のない文字の羅列と考える人もいるだろう。その文章や文体、言葉やその間や拍子に魂が宿ると信じる人な…

頭骸骨と貝殻、波と砂、光、風、音。

誰もいなくなった浜辺に、いつの間にか頭骸骨と貝殻が流れ着いている。砂の上に横になり、少しばかり砂に埋もれながら、光によって、その質感が照らされている。乾いたカルシウムのような物質である質感と、湿った艶かしさのある生物の一部だった質感が、妙…

現象は精神している。

食事をしていると、ふとした瞬間に食べ物の味だけでなく、食器やスプーンの質感が自分の身体に感じられることがある。お酒を嗜む時に器の飲み口によって味が変わったり、アイスを食べる時にスプーンの形状によってアイスの味が変わったりするように、人間は…

木や石、火や風のように思考する。

日頃から使っていないからか、それとも歳をとったからなのか、言葉がなかなか出てこなくなってきた。出てこないだけでなく、とにかく短くて、息切れを起こしている。文章を書く体力が衰えて、息継ぎの長いうねりのある文章を書くのが難しくなってしまった。…

『アンチ・オイディプス』から想起される問い

1. 意識(外延・現働・微分・収縮・明示的)からみたのではない、無意識(内包・潜在・積分・弛緩・暗示的)からみた発生とは何か? ✎〈自然(フュシス)〉と〈制度(ノモス)〉のどこから語るのか。 ✎デカルトからドイツ観念論(自己意識)の系譜とロマン主…

「思考、静寂、対話、複数性」

思考とは外部からの情報を判断する事だけでなく、その事象自体や意味について考えたり、問いを立ててみるなどがある。その中でも大切なのが自分とは異なる立場で思考し、それを吟味する事である。思考は、判断だけでなく立ち止まり抵抗することも任されてい…

「言葉、信じる、祈り、連帯」

言葉の力というのは、何かを切り取ったり、意味を映したり摸したり移したり、何かと何かを結びつけるだけではなくて、言葉の力を信じる事によって、言葉が蓄えている種から芽が出て、その芽を育てていくような、事物と精神の折衝から顕れる過程に委ねて、そ…

「言葉、前提、記憶、表面」

言葉に向けられた言葉ではなく、他者に向けられた言葉で語ろうとする時、言葉の背後にあるものを、言葉の使われ方から思慮していく方法がある。他者の置かれた状況や立場を理解した上で届く言葉を使う時、言葉は部分ではなく、互いの世界を分有する。それは…

「自我、集団、国家、利便性」

ひとりの人間で起こる自我のパーツ間の批判・追放・障壁・遊離/離隔化といった現象と、社会という集団間で起こる暴力・差別・格差・無力/透明化といった現象と、国家間で起こる侵略や略奪・言葉や文化の禁止・壁の建造・領土の区画/空白化といった現象は…

「笑い、差別、無力化、暴力」

笑いには差別が含まれる。それは、ある不安定な文脈にいる人がぎこちなく振る舞うのを嘲笑う事や、安定した文脈を特権的に持つ者が持たざる者のずれを指摘できる事を含むからだ。もちろん笑いにはそれだけではなく、安定や不安定を超えた文脈でおこる感情の…

「食べる、欲望、欲動、存在」

誰かが作った料理を食べる誰かがいる事のように、誰かが食べたものを覚えている誰かがいる事は、幸福な出来事かもしれない。食べる事の記憶は生の記憶でありながら、死も含んでいる。生きていく、それ事体のように。そこでは、どれだけ食べたかは問われず、…

「世界、視点、架橋、和解」

他人を攻撃する人は、同じように自らを攻撃する。自らを攻撃する人は、同じように他人を攻撃する。攻撃したくなった時、その炎の前に立ち止まり、まずは自らの内側に燃える炎を鎮める必要がある。その炎をさらに大きくするのか、小さくするのかは、今ここで…

「特権、罪悪感、連帯」

持っている人は持っている特権を知らず、持たざる人は持たざる特権を知らない。持っている人が、それを指摘されれば居心地の悪さを感じそれぞれの反応を生む。罪悪感を抱きながら持たざる人と連帯したり、特権を認めなかったり、特権を使ってより私欲を満た…

「空白、余白、純粋過去」

時間を潰す、暇を持て余す、間が持たない、など空白や余白を言い表すような言葉はあるが、空白や余白自体を考える事は難しい。私達は、時間や空間を可視化し、区切る事で、間接的に扱っている。しかし、空白や余白というものは、不在や未知に関するもので、…

「過剰物、便利さ、不自然さ」

本来、社会は分有によって成り立っていたけれど、それが配分となり、貨幣が土地と財産を切り離したことで、より私有が進み、資本という過剰物を再生産する仕組みと、それを物質的に行き渡らす物流と、言語で切り取られた情報として拡めていくネットワークが…

「視点、俯瞰、差異」

視点といった時に、主体から向けられた注意が思い浮かぶが、視点といって気づきを思い浮かべることはない。この事は、気づきはやってくるものを受け取る作用であり、注意は視点から向けられる作用であるからだと考えられる。しかし、俯瞰は出来事の流れに内…

「隔絶、壁、追放」

私達は、事象を切り取らなければ、それを扱えないが、それはそのもの自体ではないし、私の切り取り方が他者を毀損する怖さを含んでいる。この怖さは、切り離された私自身の不安を喚起させ、その隔絶の壁を固く閉ざしたものにしてしまう。そして、万能的で排…